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第6話 初めてお客様を乗せた日〜緊張で震えた最初の乗務〜

いよいよ、タクシードライバーとしての初日を迎えました。

制服に袖を通し、営業車に乗り込む。

何度も研修を受け、準備はしてきました。

それでも胸の鼓動は止まりません。

タクシーの営業には、大きく分けて二つのスタイルがあります。

一つは**「流し営業」**。

街中を走りながら、お客様が手を挙げたら停車し、その場で目的地までお送りする営業スタイルです。

もう一つは**「地域密着型の無線配車」**。

電話や予約で依頼を受けたお客様のもとへ、無線の指示で向かう営業スタイルです。

私が入社した会社は地域密着型でしたが、新人はまず流し営業で経験を積むことになっていました。

市街地へ向かう途中、コンビニの駐車場で車を止め、大きく深呼吸。

「よし、行くぞ。」

そう自分に言い聞かせて走り出そうとした、その時でした。

キャリーケースを持ったサラリーマンの方が私を見て手を挙げました。

「天神までお願いします。」

「は、はい!どうぞ!」

人生で初めてのお客様です。

緊張で頭の中は真っ白でした。

私は思わず正直に伝えました。

「実は今日が初乗務で、あなたが最初のお客様なんです。」

すると、そのお客様は優しく笑ってこう言ってくださいました。

「大丈夫ですよ。私が道を案内しますから、安心してください。」

その一言で、どれほど気持ちが楽になったことでしょう。

無事に目的地までお送りし、お客様を降ろした瞬間、心の底からホッとしました。

今では笑い話ですが、この時の感動は今でも忘れることができません。

新人の頃は、お客様を乗せるたびに行き先を聞き、

「新人なので道を教えていただけますか。」

そうお願いしていました。

50歳の新人タクシードライバー。

振り返ると、本当に親切なお客様が多かったと思います。

もちろん、夜の中洲や繁華街では怖い思いをしたこともありました。

それもまた、タクシードライバーという仕事の現実です。

そんなある日、偶然にも有名な女優さんを空港までお送りしたこともありました。

会社へ戻ると、

「今日、○○さん乗せとったやろ?」

と話題になっていましたが、その頃の私は芸能人だと気付く余裕もありませんでした。

それよりも、

「無事に目的地まで送り届けること。」

それだけで精一杯だったのです。

安心していただき、安全に、そして快適に目的地までお送りする。

お客様から、

「ありがとう。」

そう言っていただけるたびに思いました。

「お金をいただいて、ありがとうと言ってもらえる仕事なんだ。」

タクシードライバーという仕事の素晴らしさを、初めて実感した瞬間でした。


次回予告

第7話 歩合給という厳しい世界

〜足切り制度との戦い〜

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