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9.32026
第6話 初めてお客様を乗せた日〜緊張で震えた最初の乗務〜

いよいよ、タクシードライバーとしての初日を迎えました。
制服に袖を通し、営業車に乗り込む。
何度も研修を受け、準備はしてきました。
それでも胸の鼓動は止まりません。
タクシーの営業には、大きく分けて二つのスタイルがあります。
一つは**「流し営業」**。
街中を走りながら、お客様が手を挙げたら停車し、その場で目的地までお送りする営業スタイルです。
もう一つは**「地域密着型の無線配車」**。
電話や予約で依頼を受けたお客様のもとへ、無線の指示で向かう営業スタイルです。
私が入社した会社は地域密着型でしたが、新人はまず流し営業で経験を積むことになっていました。
市街地へ向かう途中、コンビニの駐車場で車を止め、大きく深呼吸。
「よし、行くぞ。」
そう自分に言い聞かせて走り出そうとした、その時でした。
キャリーケースを持ったサラリーマンの方が私を見て手を挙げました。
「天神までお願いします。」
「は、はい!どうぞ!」
人生で初めてのお客様です。
緊張で頭の中は真っ白でした。
私は思わず正直に伝えました。
「実は今日が初乗務で、あなたが最初のお客様なんです。」
すると、そのお客様は優しく笑ってこう言ってくださいました。
「大丈夫ですよ。私が道を案内しますから、安心してください。」
その一言で、どれほど気持ちが楽になったことでしょう。
無事に目的地までお送りし、お客様を降ろした瞬間、心の底からホッとしました。
今では笑い話ですが、この時の感動は今でも忘れることができません。
新人の頃は、お客様を乗せるたびに行き先を聞き、
「新人なので道を教えていただけますか。」
そうお願いしていました。
50歳の新人タクシードライバー。
振り返ると、本当に親切なお客様が多かったと思います。
もちろん、夜の中洲や繁華街では怖い思いをしたこともありました。
それもまた、タクシードライバーという仕事の現実です。
そんなある日、偶然にも有名な女優さんを空港までお送りしたこともありました。
会社へ戻ると、
「今日、○○さん乗せとったやろ?」
と話題になっていましたが、その頃の私は芸能人だと気付く余裕もありませんでした。
それよりも、
「無事に目的地まで送り届けること。」
それだけで精一杯だったのです。
安心していただき、安全に、そして快適に目的地までお送りする。
お客様から、
「ありがとう。」
そう言っていただけるたびに思いました。
「お金をいただいて、ありがとうと言ってもらえる仕事なんだ。」
タクシードライバーという仕事の素晴らしさを、初めて実感した瞬間でした。
次回予告
第7話 歩合給という厳しい世界
〜足切り制度との戦い〜
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