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9.72026
第10話 酔っ払い、乗り逃げ、そして人間模様〜タクシーで見た夜のドラマ〜

もらい事故から少しずつ立ち直り、再びいつものように乗務へ戻りました。
「今日も安全運転で。」
そんな気持ちでハンドルを握っていました。
ある日の営業終了間際。
会社へ戻る途中で、一人の20代くらいの男性が手を挙げました。
キャップ帽を深くかぶり、マスク姿の若い男性でした。
行き先を告げられ出発すると、途中で若い男性を一人、さらに若い女性を一人乗せることになりました。
待ち時間もあり、メーターは一万円を超えていました。
やがて先に二人が降り、車内には最初の男性と私だけになりました。
世間話をしていると、とても愛想の良い青年に見えました。
すると突然、スマートフォンを取り出して電話をかけ始めました。
「山田さん、今からタクシー代をもらいに行くので用意しておいてください。」
目的地へ到着すると、
「いくらですか?」
「10,900円です。」
「レシートをください。」
そう言って男性は、
「山田さんからお金をもらったら、すぐ戻ります。」
と車を降りました。
私は笑顔で、
「はい、待っていますね。」
と送り出しました。
しかし、その男性が戻ってくることはありませんでした。
今思えば、当時はまだコロナ禍でもなかったのに、キャップ帽とマスクで顔を隠していました。
車内のドライブレコーダーに顔が映らないようにしていたのでしょう。
人を信じた結果、裏切られる。
これもまた、一つの経験でした。
その後、そのグループは無賃乗車を繰り返していた常習犯であることが分かり、警察に逮捕されました。
19歳だったその青年は、後日、ご両親と一緒に会社へ謝罪に来られました。
複雑な気持ちでしたが、二度と同じことを繰り返してほしくないと願うばかりでした。
さらに別の日の深夜。
繁華街で男女四人組を乗せた時のことです。
突然、理不尽な言い掛かりをつけられ、車内のアクリル板を蹴って破壊されました。
暴言を浴びせられ、そのまま逃走。
タクシードライバーという仕事は、人の優しさに触れることもあれば、人の怖さを知ることもあります。
こうした出来事が続き、私の心は少しずつ疲弊していきました。
そして、退職という決断をすることになります。
人生には、立ち止まって学び直す時間も必要です。
私は新しい一歩を踏み出すため、職業訓練校の門をたたくことにしました。
次回予告
第11話 職業訓練校で学んだパソコン
〜人生を変えた新しい武器〜
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