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10.192026
第29話 87歳の誕生日〜ピザとケーキで祝った最後の誕生日〜

最後まで、母らしく
母は病院を退院し、自分が望んでいた施設へ戻ることができました。
「最後は病院ではなく、施設に帰りたい。」
その母の願いをかなえることができました。
施設では月に2回、医師が訪問診療に来てくださいます。
そしてある日、医師から電話で今後についての説明がありました。
これからは病気を治すことを目指すのではなく、できる限り痛みや苦しさを和らげ、穏やかに過ごせるようにする治療に入るという説明でした。
電話越しに先生の話を聞きながら、私は涙が止まりませんでした。
これまで母の前では、できるだけ普通に振る舞ってきました。
不安になっても、悲しくなっても、
「まだ大丈夫。」
そう自分に言い聞かせていたのかもしれません。
ずっと我慢していたものが、その時、一気にあふれてきました。
そんな私に先生は言いました。
「ご家族は、できるだけ笑顔で接してあげてください。」
その言葉を聞いて、私は思いました。
最後まで母の前では笑っていよう。
母に余計な心配をさせないようにしよう。
そして、母が食べたいものを食べさせてあげよう。
体は少しずつ弱っていましたが、母の「食べたい」という気持ちは最後まで変わりませんでした。
テレビを見て美味しそうな食べ物が映ると、
「あれが食べたい。」
とリクエストします。
ある時は妹に、
「あそこのピザじゃなくて、あの店のピザが食べたい。」
と、お店まで指定したそうです(笑)
最後まで食べることには妥協しない。
本当に母らしいなと思います。
母の誕生日は1月15日。
87歳になりました。
その日、妹が母の希望していたピザと、誕生日のケーキを持って施設へ行ってくれました。
母は、美味しそうに食べていたそうです。
87歳の誕生日。
大好きなものを食べて過ごすことができました。
そして、その誕生日から5日後。
母は静かに永眠しました。
最後まで自分らしく、
食べたいものを食べ、
家族に囲まれ、
自分で選んだ場所で過ごした母。
1月15日の誕生日に食べたピザとケーキ。
それが母にとって、最後の誕生日のお祝いになりました。
次回予告
最終話
ありがとう、お母さん
〜最後の親孝行〜
母との別れ。
父を亡くしてから一人で暮らした日々。
施設探し、病院への付き添い、入退院。
そして毎週日曜日、一緒に食べた昼ご飯。
母を見送った今だからこそ分かることがあります。
親が私に教えてくれたこと。
そして、私が自分の子供たちへ伝えていきたいこと。
最後にもう一度、母へ。
「ありがとう、お母さん。」
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