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第29話 87歳の誕生日〜ピザとケーキで祝った最後の誕生日〜

最後まで、母らしく

母は病院を退院し、自分が望んでいた施設へ戻ることができました。

「最後は病院ではなく、施設に帰りたい。」

その母の願いをかなえることができました。

施設では月に2回、医師が訪問診療に来てくださいます。

そしてある日、医師から電話で今後についての説明がありました。

これからは病気を治すことを目指すのではなく、できる限り痛みや苦しさを和らげ、穏やかに過ごせるようにする治療に入るという説明でした。

電話越しに先生の話を聞きながら、私は涙が止まりませんでした。

これまで母の前では、できるだけ普通に振る舞ってきました。

不安になっても、悲しくなっても、

「まだ大丈夫。」

そう自分に言い聞かせていたのかもしれません。

ずっと我慢していたものが、その時、一気にあふれてきました。

そんな私に先生は言いました。

「ご家族は、できるだけ笑顔で接してあげてください。」

その言葉を聞いて、私は思いました。

最後まで母の前では笑っていよう。

母に余計な心配をさせないようにしよう。

そして、母が食べたいものを食べさせてあげよう。


体は少しずつ弱っていましたが、母の「食べたい」という気持ちは最後まで変わりませんでした。

テレビを見て美味しそうな食べ物が映ると、

「あれが食べたい。」

とリクエストします。

ある時は妹に、

「あそこのピザじゃなくて、あの店のピザが食べたい。」

と、お店まで指定したそうです(笑)

最後まで食べることには妥協しない。

本当に母らしいなと思います。

母の誕生日は1月15日。

87歳になりました。

その日、妹が母の希望していたピザと、誕生日のケーキを持って施設へ行ってくれました。

母は、美味しそうに食べていたそうです。

87歳の誕生日。

大好きなものを食べて過ごすことができました。

そして、その誕生日から5日後。

母は静かに永眠しました。

最後まで自分らしく、

食べたいものを食べ、

家族に囲まれ、

自分で選んだ場所で過ごした母。

1月15日の誕生日に食べたピザとケーキ。

それが母にとって、最後の誕生日のお祝いになりました。


次回予告

最終話

ありがとう、お母さん

〜最後の親孝行〜

母との別れ。

父を亡くしてから一人で暮らした日々。

施設探し、病院への付き添い、入退院。

そして毎週日曜日、一緒に食べた昼ご飯。

母を見送った今だからこそ分かることがあります。

親が私に教えてくれたこと。

そして、私が自分の子供たちへ伝えていきたいこと。

最後にもう一度、母へ。

「ありがとう、お母さん。」

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